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徒然とつらつらと、無為かつ怠惰な生活を書き綴ります。
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 四つ足が虚空を往く盾を踏み付け、蒼い奇跡を伴って褐色の肌の男へと肉薄する。
男は眉ひとつ動かさずにもう一枚の盾を操り、目の覚めるような空色の狼を
はね飛ばした。両者の距離が開く。
 そんな繰り返しが、既に数十。

「無駄だ、騎士よ」

 盾の守護獣。蒼い獣の姿に、アノレゴス=ダンデオンは宣言する。

「我が盾に死角は無い。お前が如何な方向から迫ろうと……全て防ぎきる」
「……フン」

 狼――ザフィーラは、その姿を人間体へと変化させて毒づいた。
可能な限り早く主の後を追わなければならないというのに、未だこの盾を
打ち破れずにいる。
 
(それ以前に)

 浮遊する二枚の盾笛を睨みやり、ひとりごちる。

(……これよりも長期戦になったら勝ち目はない、な)

 動き回っているこちらと違い、相手は疲れ知らずの盾を動かしてこちらを
追っている。こちらの体力も魔力も無限ではないのだから、いずれ限界が来るとしたら
それはこちらの方が先だ。

(どうする……主を悲しませることになるが……)

 無茶な特攻も考えなければならないかもしれない。拳を握って静かに覚悟を決める。
 と――

「シュワルベフリーデン!」「フォトンランサー!」

 脈絡なくアノレゴスの体が爆煙に包まれる。ザフィーラの背後からの射撃だった。
不意に現れた三つの気配に振り向く。

「……お前たちか」
「無事かい? ザフィーラ」

 視線の先で不敵に笑っていたのは、茜色の髪を風に揺らせている長身の女。
そしてその傍らには深紅の衣を纏い、その体格にはどこまでも不釣り合いな
鉄槌を携える少女と、淡い碧の光を繰る女性がいた。
 おそらくは碧の魔力光を繰る湖の騎士・シャマルのジャミングでここまで
気配を消して来たのだろう。
 深紅の少女が耐えかねたように叫ぶ。

「ザフィーラ! はやてがどこ行ったか……」
「慌てるな、ヴィータ。主はこの先へお一人で……いや、リインフォースと
 共に向かわれた。後を追わねば……」
「はやてちゃんたち……大丈夫かしら……」

 騎士たちが口々に言う中で、茜色の髪の女――アルフだけは、薄れつつある
爆煙を無言で見上げていた。 

「どうやら」

 ぽつりと呟く。

「……不意打ちの効果はなかったみたいだねぇ」
「あん?」

 ヴィータが怪訝な声をあげた瞬間、一陣の風が吹いた。

「……げ」
「無駄なことを」

 無傷で呟いたアノレゴスの無表情に、ヴィータが苦々しく……というか心底
嫌気がさしたようにぼやく。完璧と言えば完璧に過ぎる奇襲すらも防ぎきられた
のだから当然と言えば当然だが。
 
「ふむ、四人か。多少分が悪くなったが……帝国の戦士に逃亡の文字はない。
 まとめてかかってくるというのならそれも良かろう」
「大した自信だ。勝てるつもりでいるのか?」
「どけよ。はやてたちを助けに行かなきゃなんねーんだ……!
 後のことなんか気にしねーからな! とっとと一発デカいので――」
「ヴィータ」

 身も蓋もなく最大魔法を放ちそうな少女に、ザフィーラは制止の声をかけた。
 敵への眼光もそのままに振り返るヴィータが何かを言い出す前に機先を制して、言う。

「ここからは連携だ。全員がそれぞれの仕事をしなければならん」
「……ザフィーラ?」

 こちらの言いたいことを読みとったのか、ヴィータは驚きの表情を浮かべてみせた。
シャマルも既に心得ているようで、その視線はアノレゴスを見ている。正しくは
アノレゴスの後方、その先を。

「解るな、ヴィータ?」
「……解った」

 小さく呟いたヴィータから視線を外し、アルフの方を見る。彼女も一応は
ザフィーラの意図を汲み取ったらしく、こちらは苦い表情を浮かべている。

(念話すら要らんとはな)

 ザフィーラは胸中で苦笑した。こういうのを主の国の言葉で何と言うのだったか。

(……確か、以心伝心、と言ったか)

 こういうのも悪くはない。

「結論は出たか?」
「ああ、待たせたな」
「……なんか妙に間抜けた会話だねぇ」

 余計なアルフの一言は無視して、ザフィーラは迎撃の姿勢をとった。
アノレゴスは魔力を高めており、おそらく次の攻撃は向こうから来るだろう。
そしてその時が好機だ。

「双面の護り……我が絶技、かわせるものならかわして見せよ!」

 空気を切り裂いて、二枚の盾が超高速で迫る。蒼天に一文字を描くその鈍色は、
迷いなくこちらへ突っ込んできていた。予想通りに。
 



「行け」
「……やられんじゃねーぞっ!」
「無事で会いましょう、ザフィーラ」

 


「……ほう……」

 自分の横を素通りしていった二人の騎士を視線ですら追わずに、アノレゴスは
感嘆の声をあげた。

「速い進軍だ。まるで稲妻のような。……迷いを断ち切った人が出す速度だ」

 その視線の先では、残った二人が必死で盾を受け止めている。
白銀の髪の男と、茜色の髪の女が。

「く……何故ッ……残った! お前も私の考えに気付いていたのだろうが!」
「うっさいよ……この馬鹿! 無茶だろ!? 一人でなんてッ!」

 お互いに怒鳴り合いつつ、渾身の力で盾笛を投げ飛ばす。
 結果的に上手く行ったと言うべきだろうか。シャマルたちははやての援護に
向かわせることが出来た。唯一考えと違ったのは、アルフが残ってしまったことだが。
 溜め息。

「……お前というヤツは……」
「何だってのさ」

 そういうアルフの表情は、どことなく沈んでいるように見えた。その姿に、
言おうと思っていた言葉がかき消えていくのを感じる。

「……迷惑だったかい? アタシがアンタの心配したら」

 いつもの勝ち気はどこへ消えたのか。何故かいじけるように呟くアルフの
背負う雰囲気に、ザフィーラは何故だか罪悪感を覚えた。どうしろと言うのか。

「……いや、別に、迷惑では、ないが」
「……ならいいだろ、別にさ。足手まといにゃならないから、絶対に」


 
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「ふふ……凛々しい子ばかり来るわね……嬉しいわ」
「悪いが戯言に付き合う気分じゃないんだ。どうせ君達守護者は逮捕も出来ない。
 退いてくれ。今なら追わない」

 ちら、とクロノはこちらを振り返った。そして少しすまなそうな表情を浮かべる。
 フェイトが怪我を負ったことを心配しているらしかった。フェイトは少し
慌てて、

「だ、大丈夫。平気」
「……そうは見えないぞ」
「み、見た目ほどじゃないってば」
「ああ、分かった。もういい。休んでてくれ」

 言うだけ言って、クロノはデュランダルの切っ先をアララへ向けた。
そこから発される闘気はまさしく本物で、シグナムのような鋭さとはまた
違う強さがある。
 柔らかい棘。そんなイメージだった。痛くはないが確実に刺さる。貫くことも
あるかもしれない。

「……だからシスコンだって言うんだけどなぁ」
「あれ、ユーノ……いつの間にいたの?」
「……何か、実はひどくないか君ら兄妹は」

 ユーノがいつの間にか憮然とした表情で回復結界を張っていた。傷が
ゆっくりと癒えていくのを実感として感じながら、本格的に撃ち合いを始めた
義兄とアララをの姿を見やる。
 予想通りではあるが、全力でかかっているクロノは圧倒的に強かった。
アララが途切れ途切れに放つ弾幕を軽く避けて、回避と同時に放つ射撃を
確実にヒットさせてゆく。

「くっ……ああっ……!」
「いくら何でも、フェイトとしばらくやり合った後じゃどうやっても僕には勝てないさ」
「……二人がかり、なんてね……酷いんじゃないかしら?」
「フェイトは優しい子なんだが。……多分、単に僕が酷い奴なのさ。
 ……さあ、最後だ」
<Blaze cannon>

 悲鳴すら殺して、熱量の魔力砲撃がアララを飲み込む。非殺傷設定とは言え、
あの威力なら昏倒は間違いないだろう。拍子抜けするぐらい呆気ない終わり方である。

「……え?」

 と、思いきや。
 完全に非殺傷設定だったはずの砲撃が消えた後には、アララの姿はなくなっていた。
 ユーノが苦笑する。

「……幻影だからね」
「幻影?」
「この城のガーディアンはみんな、実体が無いんだ。逮捕のしようもないから
 クロノも本気出してるね……まあ、フェイトが怪我させられたって理由も
 あるんだろうけどさ」

 そんなことを聞いている間に、無傷のクロノがこちらへと飛んできた。
一方的な戦闘だったとは言え息も切らせていない。

「フェイト。傷は……」
「……うん、大丈夫。治ったから」
「一応はね。僕も回復が専門じゃないから……シャマルさんにも見てもらった方がいい」
「傷に障りはないか。なら、行こう。
 ……早くみんなと合流しないと」
 


 鶴翼陣型で迫る紅色の直射弾。絶愛の檻で回避という選択肢を奪った上で、大量の
弾幕でフェイトを墜とすつもりなのだろう。
 それに対して、もはや小細工も何もない。

<Please  intercept  it. >
「もちろん」

 諸手で握りしめたバルディッシュ・ザンバーをコンパクトに振るう。
 
「消えろッ!」

 帯状に広がるまでに広がった弾幕を、金色の魔力刃が舐めた。残滓を
散らせて直射弾が消滅する。

「……いつまで保つかしらね!」

 更にもう一波。先程よりも規模の大きい弾幕がフェイトへと撃ち込まれる。

(よし……このまま……)

 幾度も弾幕を切り伏せていけば、少しずつだが隙も生まれる。アララ・クランが
業を煮やして一気に勝負を決めるべく大技を出してきたら、その隙にこの荊を
スプライトザンバーで一掃する。言葉としては単純なだけの、しかし困難極まる
作戦ではある。
 問題は……それまでにフェイトが充分魔力を残していられるかどうかで。

(迷っちゃ駄目だ)

 第三陣。カートリッジロード。鈍ってきた切れ味を再補強する。
 
「……はぁぁぁぁッ!!」



 

 第何陣か。それすらも頭にない。50を決して下るまいということぐらいは
何となく勘で理解していたが。
 10発の攻撃に1発の反撃。100発の弾幕に1発の砲撃。圧倒的な数の暴力に
晒されて、フェイトはそれでも立っていた。切り払えなかった魔力弾を
バリアジャケットで受け、ところどころ傷を負いながらも。ザンバーに込められた
魔力もフェイト自身の闘志も、決して衰えてはいない。

(……もう、少し)

「頑張ったわね……お嬢ちゃん。でも……」

 アララの――本当に心の底から労うような――声すらも耳には届かない。
ただその挙動から如何な攻撃が来るか。それだけに集中する。

「もう終わりよ!」

 大振りな攻撃。おそらくこれさえ凌げばスプライトザンバーを放つだけの
隙が出来るはずだ。
 フェイトは痺れ始めた両腕に再度活を入れた。これさえ。これさえ凌げば。

「……うぁ、ぁぁぁッ!」

 金色の魔力刃を全力で振り抜く。ところどころ制御し損ない、ザンバーの
周囲にアーク放電が起こる。だがそれも関係ない。
 魔力が炸裂。
 弾幕のカーテンが裂けた。そしてその向こうに。

(……しまった)

 更に一発、それなりの規模の魔力弾が迫っていた。威力はそれほど大きくは
ないが直撃コースである。フェイトの意識を奪い去るには充分だろう。
 
「……こんな、ところで――」
「――負けそうになるのは、一人で背負い込んでるからだと思うんだがな」

 不意に。
 上空からの魔力射撃。

「……え?」

 青い光が爆ぜて、目の前の驚異が軽い音をたてて消滅するのを、フェイトは
はっきりと見ていた。そして、

「……ここまでだ。ねじれた城の守護者」

 音もなく、黒衣を鎧った少年が上空から降下してくる。その後ろ姿に、
フェイトは全身の緊張が一気に弛緩するのを感じた。
 強くて無愛想な上司。そして優しくて照れ屋な義兄。

「……クロノ……!」





「……うッ……!」

 荊の奔流がフェイトを飲み込み、その柔肌の数ヶ所に裂傷を残す。
『純愛の檻』は少女の機動を阻害するように広がり、やがて球状の天蓋を造り上げて
その動きを停止した。
 
<Are you ok, Sir?>

 聞き慣れた声に、我に返る。
 フェイトと同じく所々に傷を負ったバルディッシュが、その身に填め込まれた
宝玉を光らせて出した声だった。形態はザンバーフォーム。必勝の機をいなされて
自失していた持ち主に代わり、『彼』自身の判断で変形した結果である。

(……魔力刃で……荊を切り伏せてくれたってこと……?)

 展開された幅広の魔力刃。もしもこれがなければ、今頃フェイトは致命傷を
負っていたかも知れない。

(そう……か……)
「ありがとう、バルディッシュ……ごめんね」
(分かってたはずだった……私はまだまだ未熟だってこと。私が自信を持って
 撃った攻撃だって、平気でいなせるぐらい強い人がいるってことは)

 言葉と共に魔力を循環させる。肩、腕、腰、脚。そして最早体の一部と言っても
良いぐらいにいつも手の中にいた相棒に、魔力を漲らせる。
 そしてザンバーの切っ先を、未だ虚空に浮かぶ女のシルエットへと向けた。 

<Condition all green>
「仕切り直しだ……!」



 無数の幻影を作り上げながら盾が旋回、鋼の軛が蜘蛛の巣のように重なる中を、
意志があるかのように不規則な軌道で紙一重の回避を見せて翔ぶ。

(……捉えきれん!)

 ザフィーラはそう判断すると、周囲の壁面から無数に伸びる拘束条を自分の周りに
壁のように張り巡らせた。巨大な鋼の鎖が、隙間なく絶対防御を生み出す。

「砕け盾笛――我が絶技よ!」
「させるかッ!」

 四方八方から、二枚しかないはずの盾が襲いかかる。鋼の哭き声が響き渡る。

(……我が軛と同硬度だというのか?)

 だとすれば、いつまでもこうしているわけにはいかない。
 ザフィーラは鋼鉄の天蓋に僅かばかりの間隙を作り、一息にそこから飛び出した。

「……みすみす逃がすと思うな!」

 迫るはアノレゴス=ダンデオンが誇る『双面の護り』を成す二枚の盾笛。
飛翔する一枚に蒼き狼は無造作に噛みつき、首を振って残る一枚にそれを叩きつけた。
 虚空を蹴り、今やがら空きのダンデオンへと肉薄する――

「無駄だ」
「くっ!?」

 振り飛ばしたはずの盾笛が瞬きの間もなく目の前に現れた。前肢に最大限の力を
込めて、無理矢理にベクトルを変化させる。
 距離が開いて、

「……愉しいな、騎士よ」
「我はそうは思わん。急いでいると言ったはずだが?」





 
 
 
 


(やった……?)
 魔法には反動も反作用も無いが、それでも一発の手応えというものは確かに
存在する。高機動魔法から零距離砲撃までへの一連の流れはまぎれもなく必殺の
機で放ったものであり、あのタイミングでプラズマスマッシャーを防御できるほどの
防御を張れるのは、なのはやザフィーラのような極端な防御力を持つ魔導師ぐらいだろう。
と――
 魔力の爆発で生じた煙が晴れる。
 次の瞬間フェイトが見たのは、不思議な光と紋章を浮かべた盾だった。
  
「なッ!?」
「……痛いじゃない」

 半透明の防壁がその姿を薄れさせ、空中に屹立するその女の姿がフェイトの
目に映りこむ。アララ・クランの艶やかな笑み。
 フェイトは狼狽していた。
 最適の攻撃位置(マキシマム・キルゾーン)へと瞬時に移動してから放つ
最大威力の攻撃(マキシマム・ダメージ)。音速に近い瞬発力が可能にする銃舞(ガンプ)。
間違いなく必殺、必倒、必滅の一撃であったはずだ。クロノやシグナムが
相手だったとしても勝利を確信できた一撃だったはずだ――!

「――ッ――」
<Sir!>

 愛機の声も、フェイトを落ち着かせるには至らない。
 故に。
 
「迅雷(はや)いわね……お嬢ちゃん。なら、これはどう?」

 アララが薄い唇を一舐めして朗々と唄ったその歌に、少女は気付かない。

 
 我は全ての母の母 美の極北 全ての恋の源たる赤にして赤に嘆願す
 それは一人の女よりはじまる女の鎖
 赤にして薄紅の我は 万古の契約の履行を要請する

 我は母を助けるため命を与えられし一人の娘
 クラン・ロールより現れて歌を教えられし 一つの情熱!!
 
 我は生み出す贖罪の檻 我は号する心を縛る美しき牢獄!



「完成せよ!」
<――Zamber Form>
「え?」
「――絶愛の檻!!」

 赤い、どこまでも赤い荊の枝が、フェイトの全視界を覆い尽くした。

 
 

 
 


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34
性別:
男性
誕生日:
1989/08/07
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